放送番組をネットで視聴

2002年当時の日本では、携帯電話を通じての利用者も含めると、国民の2人に1人がインターネットを利用していた。放送番組に比べ画像が劣る欠点も、DSLや光ファイバーの利用でかなり解消した。ブロードバンド(高速・大容量)化がさらに進めば、放送との垣根はますます低くなることは確実だった。

Youtube(ユーチューブ)がテレビになった!

実際、2010年代にはYoutube(ユーチューブ)が爆発的に普及した。若者や子供たちは、テレビ放送を視聴するのでなく、スマホでYoutube動画を放送番組のような感覚で視聴するようになった。Youtubeとテレビを無線(Wi-Fi)でつないで、動画を楽しむのも当たり前になった。

また、通信網を通じてテレビドラマや映画を視聴する「ネットフリックス(Netflix)」の普及によって、放送と通信の区別はほとんど無意味になった。

新規参入で競争を促す

そうなる前の20世紀初頭に登場した政府の水平分離構想は、放送と通信の融合時代に迅速に対応するとともに、新規参入しやすい制度に改めて競争を促すことを狙っていた。

放送設備の管理から番組制作まで

放送業界は、法体系が変更されると、系列の番組制作会社の利用を基本とした秩序が崩れ、放送会社が放送設備の管理から番組制作まで一貫して手がけることが難しくなると反発した。結局はソフト部門とハード部門に分割を迫られる、との警戒感が強かった。

氏家斉一郎・日本テレビ放送網会長(民放連会長)

日本民間放送連盟(会長・氏家斉一郎・日本テレビ放送網会長)は「ハード部門とソフト部門が分離されれば、大災害や大事件の際に、会社の壁を超えて特別報道番組を組むなどの公共的な使命を十分に果たせなくなる恐れがある」との意見書をまとめた。意見書は、2002年1月にIT戦略本部に提出された。

NTTも「通信設備部門」と「通信サービス部門」に分離

放送業界には当初、放送との融合で勢力を伸ばそうとするNTTの「陰謀説」も流れた。しかし、NTTも「通信設備部門」と「通信サービス部門」の分離を求められることになるため、反対に回った。


経済産業省が推進

一方で、構想を応援しているのは経済産業省だった。構想のたたき台になっているのは経済産業省のレポートだった。「情報通信分野での発言力の拡大をめざす経済産業省の思惑をかなり反映した案」(総務省)との見方が強かった。

総務省は反対

監督官庁の総務省は民放に同調し、構想に否定的な立場をとった。

竹中平蔵・IT担当大臣

IT戦略本部の竹中平蔵・副本部長(IT担当大臣)は2002年1月末、「時間をかけて検討する」と述べた。2002年夏の決定をめざした当初方針を軌道修正した。

2002年3月にはIT戦略本部の会合で放送業界関係者からの意見聴取を行った。

動画

▼テレビ業界の滅亡問題 テレ東は生き残れるか?【成毛眞VSテレビ東京】

▼菅官房長官に竹中平蔵が問う!~大阪万博・カジノIR・携帯料金見直し

用語

独占禁止法

独占禁止法=公正取引委員会は、通信事業者が独占禁止法に違反する行為をしていると認めた場合、当該行為の差し止め、契約条項の削除、営業の一部譲渡など違反行為を排除するために必要な措置を命じる。また、株式取得などによって、一定の取引分野の競争を実質的に制限してしまう場合、事業者に株式の全部または一部の処分、営業の一部の譲渡などの措置を命じる。(参考:長坂祐輔

e-Japan戦略

e-Japan戦略=高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が、2001年1月に決定したIT国家戦略。ITを活用した社会経済構造の改革を狙う。通信を改革実現のための基盤産業と定め、5年以内に超高速アクセス(30M~100Mビット/秒が目安)が可能な世界最高水準のインターネット網の整備を促進し、必要とするすべての国民が低廉な料金で利用できるようにすることなどを目標とした。(参考:株オンライン

米1996年電気通信法

米1996年電気通信法=Telecommunications Act of 1996。1934年に制定された米国通信法を抜本改正した。ポイントは、①電気通信事業の規制緩和、②既存メディア間やメディア内の相互参入や合併条件の緩和、③インターネットなどコンピュータ通信でのわいせつ表現に対する厳重規制――の3点。規制緩和の目玉は、RBOCに対して市内通信市場の開放と引き替えに長距離通信市場へ参入を認めたこと。(参考:1996年アメリカのメディア業界

電気通信事業法

電気通信事業法=日本の電気通信事業の枠組みを決める法律。事業法と略す。1985年4月の通信自由化と同時に発効した。電電公社独占時代の法律「公衆電気通信法」をベースに、電気やガス、水道といった公共事業の規制の考え方を盛り込んだ。電気通信事業の許可と登録と届出、料金の認可と届出、契約約款の認可と届出、審議会への諮問、罰則などを規定する。(参考:JDPアセットマネジメント株式会社